感染症パンデミック「真の恐怖」感染免疫学の専門家・岡田晴恵教授が提言!【新型コロナウイルス感染症と戦う⑥】
パンデミックが人々に引き起こす最も恐ろしいこと
◼️医療崩壊を起こさないために
現代の日本は、最新医療のサービスを誇っているが、それも十分なスタッフあってのことである。新型インフルエンザ発生時、多くの医療従事者が倒れ込む中で、その何割が機能しうるであろうか。仕事に就いていない医療資格者や医学生、看護学生などによるバックアップ体制や、体育館などを病室に転用するなどの非常事態対応も念頭に入れておく必要がある。
「大勢の医者と看護師に逃げられたり、倒れられたら、大学病院は動けなくなり、通常の医療もできなくなる。だから、新型インフルエンザ出現を念頭において、準備対策を取り始めています」 川崎医科大学附属病院(角田司病院長)の院内感染防止委員会の寺田喜平医師の言葉通り、事前の危機管理計画が必要なのである。
川崎医大病院では、新型インフルエンザ発生時を想定して、大学内にインフルエンザウイルスの検査体制を作り、抗インフルエンザ薬や医療用マスク、ゴーグル、手袋、ガウン等を事前に準備している。しかし、この抗インフルエンザ薬も特効薬ではない。感染や発症の阻止はできないが、感染早期に服用することで症状を軽減することは期待できる。病院の機能をできうる限り維持するための努力を事前に怠らない姿勢こそ、医療現場を守る医師の精神である。
◼️物流が止まり、食料供給もきかず…命綱はライフラインの安定
次は流通の問題が起こってくる。感染者がさらに増加し、患者が街中に溢れ出すと、仕事の欠勤者が続出する。スペインかぜの時にも、鉄道員の欠勤が大きな問題となった。これは現代でも同じである。トラックの運転者、鉄道員の欠勤は、交通と流通を止める。病院ですぐに枯渇するであろう薬や医療器材の補給が滞ることは目に見えている。
そして食糧。物流が止まれば、食糧の供給もきかなくなる。さらに重要なのは、主なエネルギー供給源である石油や電力である。ライフラインの安定が、まさに命綱となるであろう。
◼️人々の不安を恐怖を支えるのは正確な情報
そして、報道。不安と恐怖に苛まれる人々を支えるのは、正確な情報と、それへの信頼である。報道体制の確保は、精神の命綱である。疫病流行時の異常な精神状態は流言蜚語を生み、スケープゴートを作り上げる前例を、すでに何度も歴史上で見てきている。中世の人々が無知であったのではない、愚かであったのではない。突然の病は心を蝕む。パニックを起こさせない正確な情報の提供が必要である。
現代の疫病、特に新型インフルエンザ大流行の重要なポイントは、地球全体で同時に起こるということである。したがって、地震や災害とは異なり、他地域からの支援や援助は望めない。
新型インフルエンザ来襲時には、その緊急性から自国は自国で対応する以外ない。自分の地域は自分たちで守るしかなくなるのが現実であろう。
国は、新型インフルエンザのパンデミックに対する委員会を組織し、新型インフルエンザのワクチンの緊急開発や、抗インフルエンザ薬の備蓄にも乗り出している。しかしワクチンは、
「微妙に姿を変えるウイルス」を相手にしているので、現在流行中のH5N1型のウイルスに 対する候補ワクチン株が、新型が出現したときに有効であるか否かは、保証できない。しかもワクチンや抗ウイルス剤は、感染・発症を完全に防ぐことはできないので、ワクチンと抗ウイルス剤さえあれば安心というわけではない。
さらに、このH5N1型以外の鳥インフルエンザから、予想外の新型インフルエンザが出現して、足元をすくわれることも考えられる。国民一人一人がこの新型インフルエンザの脅威を理解し、地域で連携し、国の対策をさらに強化推進させ、この疫病の被害を最小限で乗りきる算段を事前に整えておくことが急務なのである。
(連載)
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